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Channel: 吉岡正晴のソウル・サーチン
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◎ワンマンバンドの未来を見た~ジェイコブ・コリアー初来日ライヴ評(パート1)~10年に1度の衝撃

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◎ワン・マン・バンドの未来を見た~ジェイコブ・コリアー初来日ライヴ・レポート(パート1)~10年に1度の衝撃~夢と想像が新しい時代を創造する

【Future Of One-Man Band : Jacob Collier’s First Ever Live In Tokyo】

センセーション。

一言で言うならまさに「ジェイコブ・ショック」だ。まだまだ知名度は一般的ではなく、彼のユーチューブでそのパフォーマンスを見ていた早耳の音楽ファンが集まっていたくらいだったが、これを見た音楽好きは皆口をそろえて「すごいすごい、どうなってるの」と驚嘆の声をあげた。

数多くのCDが出て、無数のライヴを見ていても、いったい10年後にどうなっているのだろう、その発展を絶対に見続けたいと思うアーティストはそれほど多くない。だが、このジェイコブは間違いなく10年後にもフォローしておきたいアーティストだった。

すでにレコーディングを終えているというデビュー作はこの夏にはリリースされるという。9月末までにリリースされれば来年のグラミー・ノミネートの資格を持つので、グラミー賞になんらかの部門でノミネートされ、さらには、授賞式でのパフォーマンスも期待される。なんといってもバックにクインシー・ジョーンズが付いているのだから、授賞式でのパフォーマンスくらい軽くねじ込めるだろう。(笑) そして、グラミーで1曲でもこのパフォーマンスを見せられたら、ステイプルズ・センターの観客は全員総立ちでスタンディング・オヴェーションを贈ることは間違いない。それは「ジェイコブ・センセーション」だ。

おそらく1-2年後には何千人の会場でライヴを見せることになるであろうこのようなアーティストを一足先にこの小さな会場で見られるというのは本当にラッキーだ。

実際そのパフォーマンスは間近で、足元まで見たいので、彼のライヴを見るにはこうしたブルーノートのような会場は最適だ。

そういえば、エスペランザ・スポールディングもここでグラミー直後に見て、その後は大きいホールになった。

~~~

衝撃。

こんな風にして才能あふれる人物は出てくるのだなあ、と強く思った。それはここ10年で見たライヴの中でも一番の衝撃だった。

しばらく前にユーチューブで話題になっていたイギリス出身の若手アーティスト。ユーチューバ―と言ってもいいのだが、その枠を超えるミュージシャンだった。

ユーチューブのものなどは、一人多重録音で、それはそれで素晴らしいのだが、これをどうやってステージでやるのだろうか、ということは大きな謎だった。

一人ですべてやるライヴだというから、まあ、カラオケ(シークエンス)にあわせて歌う程度だろうなどとタカをくくっていたら、これがとんでもないパフォーマンスだった。才能のある人間が考えることは、常人が思いつくことのはるか上を行く。

まだ一枚もアルバムを出していない段階で来日してくれて、本当にありがとうという感じだ。

サンプリング・マシーン、ルーパー、ハーモナイザーなどありとあらゆる機材を自由自在に使いこなし、さらに、ピアノ、キーボード、ベース、パーカッション、はてはドラムスまで実演するというまさにマルチ・インストゥルメンタリストぶりをたっぷりステージで見せた。そして、音楽と同期した映像表現も圧巻、素晴らしかった。1994年(平成6年)8月2日生まれのジェイコブ・コリア(コーリア)の初来日ライヴ。

ステージには、グランド・ピアノ、キーボード3台、パーカッションを置く台にパーカッション群、その横にドラムセット。彼を映し出すカメラがおそらく3台。文字で説明するより、これは実際にライヴを見てもらうのが一番いい。

そして、ルーパー(たとえば、4小節くらいリアルに演奏すると、それを繰り返して再生するもの、さらにそれを何度も重ねたりできる)、ハーモナイザー(実際にひとつの音を歌うとそこにコードのコーラスを同時につけられる)などを駆使しながら、ひとつの楽曲にまさに少しずつカラフルな彩を付け加えていく。ライヴ・パフォーマンスで、楽曲を作る過程を見せる、そして魅せる。

Don't You Worry 'Bout A Thing - Jacob Collier
https://www.youtube.com/watch?v=pvKUttYs5ow


~~~

究極。

たとえば、一曲目のスティーヴィー・ワンダー、あるいはインコグニートなどでもおなじみの「ドンチュー・ウォーリー・アバウト・ア・シング」など、ステージ上のキーボード(3台)、パーカッション、ドラムス、ベース(2本)まで次々にやる。しかも、それらの音が混ざり合ってきちんとバンド・サウンドになっていくから驚く。これぞ、まさに本当にマルチ・インストゥルメンタリストの究極のワン・マン・バンドだ。実際にこれをリアルでその場で演奏したものを出しているところがすごい。カラオケ・レヴェルではないのだ。

そして、これに同期した映像が、たとえば、キーボードを弾いている映像に、パーカッションを叩いている映像、ドラムスを叩いてる映像が重なっていく。音が重なるように、それぞれのジェイコブの映像が重なる。つまり、映像上も3人のジェイコブが映っているのだ。

これは、複数台のカメラでジェイコブの距離を測り、それでジェイコブだけ捕捉して映像を重ねているそうだ。そうでないと、バックの景色も3重になってしまう。

WDR Big Band feat. Jacob Collier - I wish | WDR
https://www.youtube.com/watch?v=DdGszmpQMd8


ある種、オタク、変態の極致というか、究極の一人演奏パフォーマンスだ。一人で宅録して作ったものを、堂々と人前でできる。機材の発展があったからこそこのパフォーマンスができた。

しかし、将来的には、機材もジェイコブのアイデアに沿って発展していくのではないかというほど未来への可能性を感じた。ジェイコブのイマジネーションの世界、夢想世界でのアイデアを実現化する機材、使い方などが企画・制作されていくのだ。夢や想像は無限だ。それが可能性を無限にしていく。そしてその想像が創造につながる。

そして一番重要なことは、下手に機材の波に流され、飲み込まれるのではなく、機材をしっかり使いこなして、ヒューマンなリアル・ミュージックを作っているところ。機材に使われるのではなく、あくまで機材をツールとして使いこなしているのだ。主はあくまでミュージシャンたる彼、ジェイコブであり、作りだす音楽そのものなのだ。そこのバランスが抜群にいい。

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アレンジ力。

そして、もうひとつ、曲のアレンジ力がすばらしい。カヴァー曲が、どれもジェイコブ風になってしまうところがまず圧倒的だが、それをライヴで立派に構築でき再現しているところが驚異としか言いようがない。

スティーヴィーの「ドンチュー~~」、マイケル・ジャクソンの「PYT」なんか、あのリズム、グルーヴを作りだして、まるで違う楽曲のように操る。

クインシーも出てくる「PYT」マルチ画像もすごい
https://www.youtube.com/watch?v=DaNxq6Q4v1w


ジェイコブによると、ベースだとジャコ・パストリアスとか、ディアンジェロのピノなどが好きだという。ディアンジェロが好きというのは、この音を聴くとものすごくよくわかる。ちょっとネオ・ソウルっぽいところもある。

部屋にこもりきりでひたすら多重録音で音楽を作ってきたオタクが、実はものすごく明るく「人間対応力」もあり、他のミュージシャンとも一緒にできる才能もある。それがこのジェイコブの強みだ。

一体10年後、どんなステージを展開するのか、まったく想像ができない。

まさに機材とヒューマン要素(リアル・ミュージシャン)の融合の未来形を見たような気にもなった。音源、ユーチューブもいいが、彼の場合、圧倒的にライヴを体験することが一番いい。一人でここまでできるのか、本当に人間の可能性は無限大だということを痛感させられる。

クインシー・ジョーンズやハービー・ハンコック、スティーヴィー・ワンダーなどがうなるというのも見て初めてわかった。

ちなみに、ファーストも見た人によると、下記のセカンド・セットリストの中で、純粋なピアノの弾き語りの「レイトリー」の代わりに「スマイル」を同じようにピアノだけでやったそう。

このライヴをファースト、セカンド通しで見た人たちの興奮は収まらない。(僕は残念ながらセカンドだけ)

(この項、明日に続く)


左からThe Soul Searcher, Jacob Collier, Ralph Rolle

~~~

ジェイコブが参加したスナーキー・パピーの新曲。この曲もライヴで一人で演奏した。
Snarky Puppy feat. Jacob Collier & Big Ed Lee - "Don't You Know" (Family Dinner Volume Two)
https://www.youtube.com/watch?v=eqY3FaZmh-Y


■オフィシャル
http://www.jacobcollier.co.uk/#start

■ミキキ・サイトのインタヴュー
http://mikiki.tokyo.jp/articles/-/10280

■セットリスト Setlist : Jacob Collier、March 7, 2016, @ Bluenote Tokyo

[ ] denotes original artists

Show started 21:01
00. Intro
01. Don’t You Worry ‘Bout A Thing [Stevie Wonder]
02. Close To You [Burt Bacharach, Carpenters]
03. Don’t You Know [original song recorded with Snarky Puppy]
04. In My Room [Beach Boys]
05. P.Y.T. [Michael Jackson]
06. Lately [Stevie Wonder]
07. Fascinating Rhythm [George Gershwin]
Enc. Danny Boy [Irish traditional]
Show ended 22:13

■メンバー

Jacob Collier (all)
Benjamin Bloomberg (sound supporter)

(2016年3月7日月曜、ブルーノート東京、ジェイコブ・コリア・ライヴ)
ENT>MUSIC>LIVE>Collier, Jacob

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