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Channel: 吉岡正晴のソウル・サーチン
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〇 必要な情報と必要ない情報~神はディテールに宿る・「ランチの中華丼」の巻

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〇必要な情報と必要ない情報~神はディテールに宿る・「ランチの中華丼」の巻

 

【Is that information necessary?】

 

必要。

 

ふだんの会話の中で、必要な情報と必要ない情報を、僕たちはどのように取捨選択しているのだろうか。

 

なぜそんなことを考えたかというと、こんなポストを読んだからだ。

 

ふだん、とても面白いショートストーリーをSNSに書いていて僕も隠れファンの宇佐美さんが11月にポストした記事だ。許可を得て転載。

                                                  

~~~~~~

 

仮タイトル「ランチの中華丼」

 

2018年11月12日22:24 宇佐美連三

 

今日、職場の隣のデスクのKさん(26歳女性、趣味:おひとりさま)がとても忙しそうにしていた。

 

忙しかったからか、彼女はランチのタイミングを逃し、15時頃に社内のコンビニで買ってきたお弁当をデスクで食べていた。

 

食べながらもエクセルに記載された数字データを見て仕事しているKさん。

 

彼女は、少し離れた席にいる同僚に言った。

 

「いまスポーツ案件の数字まとめてるんですけど、ちょっと簡単に総括したいんで、後で時間もらっていいですか? わたしいま中華丼食べてるんで、10分後くらいで!」

 

いやー、よく働く人だ。素晴らしい。

 

僕はそう感心しながらも、ひとつ、頭からどうしても離れないことがあった。

 

あのさ……。

 

中華丼の情報、いる?

 

食べてる品目を明かす必要、ある?

 

「ゴハン食べてるんで」じゃダメ?

 

どうしても気になった僕は、言葉を発した。

 

「ごめん、どうしても気になるんだけどさ、いま中華丼の情報って必要だった?」

 

Kさんは、「へ?」という顔。

 

僕「いや、全然いいんだけどね。全然いいんだけど、なんでわざわざ"ゴハン"じゃなくて、中華丼っていう具体的な情報を提供したのかなと思って…」

 

Kさん「うーん。いや、だって中華丼じゃないですか、これ。変ですか?」

 

僕「いや、変っていうか…。まあ気になりますよね。『わたしいま中華丼食べてるんで』っていう言葉聞いたの初めてだし…」

 

Kさん「あははw まあ、女子は会話に余計な情報多いって言いますからね! まあいいじゃないですか!」

 

なんか、すごく小さい男みたいになってしまった…。

 

間違いなく、そんなこと気になる僕が小さいんだろう。

 

でも、でも…。

 

やっぱ気になるって!

 

てか、そもそもなんで中華丼買ってんだよ。

 

あなたいつもドリアとかパスタとか食べてんじゃん。

 

なんで今日に限って中華丼で、なんで今日に限って広く情報解禁してんだよ。

 

ちょっとランチのタイミングが遅くなったからって、しっかりめの丼で腹ごしらえしようとすんじゃないよ。

 

終いには、中華丼にまで腹が立ってきてしまった。

 

ああ、明日は僕も中華丼が食べたい。

 

 

↑↑↑

(842文字)引用ここまで。

 

~~~~

 

ディテール。

 

いかにも今風の観葉植物がさくっと置かれたオフィースのシュッとしたいで立ちの人達の会話という感じで、もうこれだけで十分笑えて、完結しているのだが、ちょっと一言付け加えたくなったのだ。

 

その時、彼女が発するコメント中の「中華丼」という情報はいるか。どうなんだろう。確かに「ゴハン食べてる」でもよさそうでもあり、でも、そこに食いつく筆者の宇佐美さんもさすがなわけだが。

 

普段、僕は誰かにインタヴューするときなどは、実はかなり細かいこと、具体的にいろいろ聞く。なぜかというと、その一見役に立たないような情報が、全体像を描くときに、ちょっとした味付けになったり、全体像を描くのに大いに手助けになったりするからだ。

 

ただし、一般会話とインタヴューではだいぶちがう。一般の会話だと、多くの場合、相手は、よほどおしゃべり好きでない限り必要のない情報は語らない。あるいは、知っている情報を語るか、あるいは、無意識に語っている情報は、相手に知ってもらいたい情報だったりする。つまり、しゃべりたいことを話すのだ。だが、インタヴューの場合、その語られない細かいところにおもしろいネタがあることを僕は無意識のうちに知っている。そしてそれを知りたいという気持ちは抑えられない。

 

だからと言って、それをすべて聞いていたら、時間もなくなるし、先方も「こいつ根掘り葉掘り、どこまで聞くんだ」と不信感を持ってしまうかもしれない。だからそのあたりは、適当に忖度するのだが。

 

ただ経験から言うと100訊いて答えを50もらっても、実際に使うのは、10程度ということはよくある。先方にしてみれば、「そんなこと聞いてどうする? そこ使うのか?」状態になる。いやいやいや。逆に言えば、その10を語るため(あるいは書くため)には、100訊いておかなければならないとも言えるのだ。ジャーナリズムは壮大な無駄の上に成り立っているのだ。ただこんなことは、日常生活ではなかなか理解されない。

 

さて、ランチがいつもの「ドリア」か「パスタ」か、はたまた「中華丼」なのかを知る重要性は一般の日常生活的にはない。まったくない。(キッパリ) だが、その重要性は、そこに秘められた、別に誰も知らなくてもいい全体像を浮かび上がらせるところにこそある。

 

なにより、そこで「中華丼」と言ったがために、こんな駄ブログの駄駄エントリーがひとつできるのだ。そして、「ドリア」でも、「パスタ」でもなく、そのランチが「中華丼」だったがために、多くの想像を掻き立てられるではないか。そう、神はディテールに宿るのである。僕はそれを知ったので、20代女子が「中華丼」と言ったことに諸手を挙げて賛成する。できれば、そのKさんにおかれましては、毎日、今日のランチを発表していただきたい。そうすれば点と点がつながり、過去現在未来がつながって、何かストーリーが生まれるかもしれない。

 

「ランチの中華丼」バンザイ! 

 

ENT>ESSAY>Usami

 

 

 

 

 

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