〇ビル・ウィザース追悼(パート4)「リーン・オン・ミー」~グレイト・ソング・ストーリー (名曲物語)
【Bill Withers Tribute (Part 4) Lean On Me – Great Song Story】
名曲。
The Great Song Story:
(素晴らしい作品、楽曲の誕生秘話などを不定期にご紹介する『グレイト・ソング・ストーリー(名曲物語)』。「素晴らしい曲」「名曲」はどのようにして誕生したのか? それは作者にとってどんな意味を持つのか。アーティストと楽曲の関係は? 楽曲とそのアーティスト周辺の物語でもあります。お楽しみください)
註:ビル・ウィザースは2020年3月30日、81歳で亡くなられました。彼の代表曲のひとつ「リーン・オン・ミー」についての物語です。
“The Great Song Story”:
“Lean On Me”~The Soul Of Genuine People Spread To The World
素朴。
ビル・ウィザースの生まれ故郷はウェスト・ヴァージニア州スラブフォークという南部の田舎街だった。産業といえば、石炭、鉄鋼、とても貧乏な炭鉱町だ。そこでは、近所の誰もが、皆を知っていた。誰かの家に塩がなければ、誰かが塩を貸し、ミルクが足りない家があれば、誰かがミルクを与えた。お互いがお互いを助け合い生きてきた小さな素朴な田舎街だった。そんな街では、誰かに頼る(Lean On Somebody)ということは、自然なことだった。
1971年のある日、ロスアンジェルスに移っていた彼は新しく買ったウーリッツァー社のキーボードをダンボールから取り出した。彼自身、ある程度ギターは弾くが、キーボードはそれほど弾けなかった。取り扱い説明書を読むこともなく、適当にいじりながら音を出し始めると、彼はその音が気に入った。いろいろなスイッチを適当にさわりながら、音を出していると、ちょっとしたメロディーをハミングしていた。そのハミングしたメロディーは彼が炭鉱か、あるいは故郷の教会で聴いたようなメロディーだった。
思い浮かんだメロディーから、ビルの脳裏にはその故郷の人々が思い出された。誰もが誰かに頼る小さな炭鉱町の人々を歌った歌詞が生まれた。「リーン・オン・サムバディー(誰かに頼る)」の街、スラブフォーク。そのことを思い浮かべながら書いた作品、それが「リーン・オン・ミー」だった。
しかし、この曲を作った時、彼にはアルバムのレコーディングの予定はなかった。1971年のデビュー・アルバム『ジャスト・アズ・アイ・アム』(ありのままの自分、自分そのもの、等身大の自分と言った意味)がヒットしていたが、それをプロデュースしてくれたブッカーTはスケジュールの関係で次の作品をプロデュースできなかった。(ここは推測だが、ブッカーTはビルのファースト・アルバムのプロデュース料を正しくもらえなかったのではないか。なので、1枚目があれだけ売れていたにも関わらず、ブッカーが断った。ブッカーの自伝にはビルのデビュー作のことは書かれているが、2枚目をてがけなかった理由などは書かれていない。おそらく公式には、スケジュールがあわなかった、ということになるのだろうが、実際はブッカーがファーストの約束されたギャラをもらえず、断ったのではないかと僕はふんでいる。次回、ブッカーに取材する機会があれば、ぜひ確かめてみたいと思う)
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ガレージ・バンド。
ビルはレコード会社サセックスの社長、クラレンス・エイヴォントにツアーで一緒にやっていたバンド・メンバーでレコーディングしたいというが、エイヴォントは首を縦にふらない。エイヴォントは、一流のスタジオ・ミュージシャンを起用してアルバムを作ろうと考えていたようだった。そこで、彼はスタジオ代の安い午前中に3時間ほど時間をとってもらい、そのメンバーでデモ・テープを録音させてくれるよう直訴。なんとか社長の了解を得た。
ビルとジェームス・ギャドソン、そして、その仲間たちはいつもギャドソンの自宅ガレージに集まって、汗だくになってセッションをしていた。ビルは同じ仲間のキーボード奏者レイ・ジャクソンにメンバーを集めるように頼み、ある金曜の午前10時、皆がスタジオに集まった。彼らはギャドソンのガレージでいつもやっている曲を、スタジオでやればいいだけだ。心意気もよくわかっている。
ビルは言った。「この3時間で我々は自分たちの実力を証明しなければならない」。
スタジオで「ユーズ・ミー」など何曲かを録音。スタジオからいきなり、クラレンス社長のオフィースに直行したビル。社長は、ちょうどスタックス・レコードのアル・ベルとミーティングをしていた。そこで、できたての作品を聴かせると、クラレンスはあまりのってこない。ところが、アル・ベルがその作品を気に入ったようだった。「このドラムスは、ワッツ103rd(ハンドレッド・サード)バンドのドラムスのようだな。いいじゃないか」と言い、彼の後押しもあり、なんとかセカンド・アルバムのレコーディングにゴーサインがでた。もちろん、アル・ベルがぴんときたドラムスは、ジェームス・ギャドソン、ワッツ・ハンドレッド・サード・バンドのドラマーだ。こうして、この「リーン・オン・ミー」もレコーディングされることになり、2-3度のセッションで彼の2枚目のアルバム『スティル・ビル』が完成する。
「リーン・オン・ミー」は、1972年4月からヒット。見事にソウル・チャート、ポップ・チャートでナンバー・ワンに輝いた。その後もイギリスのグループ、マッドがカヴァーしたり、また、それから15年後の1987年、クラブ・ヌーヴォーがディスコ調にして再度ナンバー・ワンにし、ビルに3度目のグラミー賞をもたらす。他にもマイケル・ジャクソンからバーブラ・ストライサンドまで多数のカヴァーが誕生し、ビル・ウィザース作品の中でももっとも人気の一曲となった。その普遍的なメッセージは曲が書かれて30年以上たった今日でも輝きを失わない。
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子供。
だがビルにとってのこの曲の思い出は、かなり個人的なものだ。彼がこの作品を書いて何年か経って、彼の子供が6年生を卒業するときに、学校の卒業劇で父親であるビル・ウィザースにこの「リーン・オン・ミー」を歌ってくれるよう依頼がきたのだ。もちろん彼は喜んでこの子供劇の中で「リーン・オン・ミー」を歌った。
ビルは言う。「若い頃以来私の人生のすべての中で、仕事をするようになって、お金がはいってきたり、女性にもてたり、いろいろ嬉しいことはあったが、何よりも報われた気持ちになったのがこの瞬間だった」。
ある一曲を書き、その作品を自分の子供の卒業劇の中で歌う。それはビルにとって大変な喜びでもあったが、この曲を聴いた世界中の人々も、それぞれに感銘し、人生に勇気やインスピレーションなどの影響を与えられてきた。
そして、この「リーン・オン・ミー」(私を頼ってくれ)は、昨今のコロナ禍でもひんぱんに歌われるようになっている。初ヒット後、ゴスペル・フィーリングあふれるゴスペル・ヴァージョンも登場した。神のメッセージともいえるような普遍的なメッセージだからだ。
人間はなかなか一人だけでは生きていけない。誰かに頼り、誰かに頼られ、お互い様で生きていく。「リーン・オン・ミー」は、「僕に頼っていいんだよ」と歌う。どこか、「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」にも似た世界観の、たぶん、1970年代初期の空気感が込められているのだろう。
この曲のルーツは、ビルの故郷ウェスト・ヴァージニアの炭鉱の街にある。素朴で純粋な人々のソウルが、ビル・ウィザースという類稀(たぐいまれ)な詩人を通して世界中の人々のソウルに触れたのである。
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Lean On Me- Bill Withers (Lyrics)
https://www.youtube.com/watch?v=rdlPVBvkr-s
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リーン・オン・ミー
作詞・作曲・歌・ビル・ウィザース
人生、生きていけば、みな、痛みを感じる時もあれば、
悲しみにくれることもある
だが、私たちが賢ければ、
いつでも希望に満ちた明日がやってくることがわかっている
君が落ち込んでいる時には、僕を頼ってくれていいんだよ
僕は君の友達になって、君ががんばれるよう手助けしよう
僕だってすぐに誰かを頼りにする日がくるかもしれないのだから
君に必要なものが僕の手元にあって、借りたいと思うなら、
プライドを捨てて、そう言ってくれ
その事を口に出して言わなければ、
誰も君の気持ちをわかってくれない
ブラザー、手助けが必要なら、ただ僕を呼んでくれればいい、
僕たちはみな、誰か頼れる人が必要なんだ
僕も君にはわかってもらえる悩みを抱えているかもしれない
僕たちはみな、誰か頼る人間が必要なんだ
持っていかなければならない荷物があるなら、
僕を呼び出してくれ、僕が荷物を少し持ってあげよう、
すぐに飛んでいくよ、君に友達が必要な時は・・・
呼んでおくれ
(訳詞ソウル・サーチャー)
Lean On Me (1972)
Written And Sung By Bill Withers
Sometimes, in my lives
We all have pain, we all have sorrow
But, if we are wise
We know that there’s always tomorrow
Lean on me, when you’re not strong
And I’ll be your friend, I’ll help you carry on
For, it won’t be long
Til I’m gonna need somebody to lean on
Please swallow your pride
If I have things you need to borrow
For no one can fill
Those of your needs that you won’t let show
You just call on me brother when you need a hand
We all need somebody to lean on
I just might have a problem that you’ll understand
We all need somebody to lean on
Lean on me, when you’re not strong
And I’ll be your friend, I’ll help you carry on
For, it won’t be long
Til I’m gonna need somebody to lean on
You just call on me brother when you need a hand
We all need somebody to lean on
I just might have a problem that you’ll understand
We all need somebody to lean on
If there is a load
You have to bear, that you can’t carry
I’m right up the road
I’ll share your load if you just call me
Call me if you need a friend
Call me …
■ベスト・オブ・ビル・ウィザース ~リーン・オン・ミー 「リーン・オン・ミー」など収録
ビル・ウィザース
(この日本盤にはデイヴィッド・リッツ著のライナーノーツ=翻訳・吉岡正晴が収録されています)
■映画『リーン・オン・ミー』
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明日は、同じく名曲物語で「ジャスト・ザ・ウェイ・オブ・アス」をお送りします。
【本稿は、2005年2月27日付けソウル・サーチン・ブログに掲載されたものに加筆修正したものです。オリジナルはこちらにあります。
http://www.soulsearchin.com/blog_archives/?p=1163 】
ENT>MUSIC>GREAT SONG STORY>Lean On Me
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