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Channel: 吉岡正晴のソウル・サーチン
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●B.B.キングを偲んで~ルシールの思い出

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●B.B.キングを偲んで~ルシールの思い出

【Tribute To B.B.King: Memories Of Lucille】

インタヴュー。

ベン・E・キングに続いて、B.B.キングも旅立った。ブルーズ・ボーイ・キング、B.B.キングには1992年12月8日、新宿のヒルトン・ホテルでヴィジオ・モノという雑誌用にインタヴューした。約40分のものだったが、とてもおもしろいものでよく覚えている。そのときのカセットテープを20年ぶり以上に聞き返した。

テープを聞いていると、そのときの雰囲気、空気が蘇ってくる。

キングは、僕の前にどっしりと深々とソファに座り、ゆっくり話をしてくれた。たとえば、同じ南部出身だが、ジェームス・ブラウンのような強い訛りはなく、実に聞きやすい英語だった。それはひょっとすると、彼がミュージシャンとして売れる前にラジオDJをしていたからかもしれない。アメリカのラジオDJは、アナウンサーと同じくらい滑舌がよく、はっきりと正しい英語をしゃべる。

もう20年前になるのだが、やはり、キングの有名なギター「ルシール」について、その名前の由来を本人の口から聞きたかった。たぶん、本人は何百回と話しているのだろうが、僕にも丁寧に説明してくれた。

「今僕が使っているのは16代目のルシールだ。最初のものは1949年。アーカンソー州トゥイストのバーでライヴをやっていたときだ。トゥイストはメンフィスから西に45マイルくらいの街だ。二人の客がライヴ中に喧嘩を始めた。すると二人の殴り合いで、そこにあったストーブが倒れ、火が燃え広がった。僕もみんなもあわててその場から逃げたが、外に出てふとギターを忘れてきたことに気づいた。何も考えずに、燃え盛るバーにギターを取りに戻ったんだ。そして、なんとかギターを救いだしたところ、建物は焼け落ちた。翌朝聞いたところによると、この二人の男たちは一人の女を巡って喧嘩をしていたという。その女の名がルシールだった。だから、僕は、二度と火の中に飛び込むような無茶をしないように誓って、その名をギターにつけたんだ」

 16本のギターのうちどれくらい手元にあるのでしょうか。初代のルシールはお持ちですか。

 「いくつかは残ってるが、誰かが持ってって返してくれないとか、僕が誰かに上げたりして、あまり手元にはないな。一番最初のは車上荒らしにあって盗まれた。だから手元にはない。いまでもあればなあ、と思う。しかし、交通事故などでこのギターが僕の足を救ってくれたこともある。持っているもので一番古いものは、正確には調べなければならないが、たぶん、25年くらい前のものはある」

 そうした古いルシールも時には演奏するのか、と尋ねると、「もちろん、いい音してるよ」と。

 以前あなたはこの飛行機に乗るときにルシール用に一席チケットを買っていたそうですが、いまでもですか。

 「いや、もう買ってない。今はケースがあるんでね。でも、心配であることには変わらないよ」

 「過去10年から15年くらい、飛行機会社がギターの機内持ち込みを許さないようになったんだ。悪い奴らが、ガンなんかを隠して持ち込んだりするからな。だから、特別のケースを作って、チェックインすることにしている。だから預けるときはいつもナーヴァスになるが、一度を除いては問題なかった。一度は、ケースが壊れていた。だが、ギターは無事だった」


 そのケースには名前は?

 「ははは、ケースに名前はつけてない。ただB.B.キングって書いてあるだけだ」
 ほかにも彼がラジオDJ時代の話なども聞いた。ヴェテランの昔話を聞くのはいつも本当に楽しい。

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 ピック。

 40分ほどのインタヴューが終わると、軽い雑談の中で、キングが「君たち(僕と編集者)に特別にいい物をあげよう」と言って、「B.B.キング」の名前が入ったギター・ピックをくれたのだ。もちろん、あの伝説のキングのギター・ピックをもらえるなんて、と2人で狂喜乱舞した。これはギター好きならずとも誰にでも自慢できる、と。

 そして、家に戻り、机の引き出しにそれはそれは大切にしまっていた。

 それからそのピックのことなどすっかり忘れた数年後。誰かとギターの話をしていて、「僕、B.B.キングのギター・ピック持ってるよ」とちょっと自慢げに話すと、「ああ、あれね、キングは会った人みんなにあげてるんだよ。両手にいっぱいいつも持ってるんだ、彼は」と言うではないか! 

 「な~~んだ、そうだったのか」と超愕然としたことは言うまでもない。そういえば、たしかあのときもピックはたくさん持っていたような気もしてきた。自分が実際に使うためのほかに、人にプレゼントするためにいつも在庫を持っているというのだ。

 つまりは、キングのピックを持っている人は世界中にかなりの数いるらしい。

 しかし、それとて、僕はキングが会った人全員にギター・ピックをプレゼントしていたとしても、なかなか素晴らしいサーヴィス精神だと思うようになった。

 そして、今回この訃報を聞き、机の引き出しの中、そのピックを探したが、とりあえず見つからなかった。どこに行ったんだ、僕のキングのピックは? 

 ~~~

盗難。 

余談だが、このインタヴューから13年後、2005年。キングのギターを作っているギブソン社がキングの80歳の誕生日を記念して、80本のルシールを売り出した。その初号(プロトタイプ)をキングに誕生日プレゼントとして提供。キングはそれが気に入り、ずっとステージで使っていた。

ところが、2009年の夏、これが盗難にあった。それから間もなく、2009年9月、ラスヴェガスの質店でラジオDJでアマチュア・ギタリスト、エリック・ダールが何も知らずに中古ギターを買ったが、なんとギブソンの調べで盗難品だと判明。無事、キングの元に返された。

 ダールはなんとその顛末を一冊の本に記している。



■B.B.キング訃報

B.B.キング、89歳で死去~ブルーズの巨人逝く
2015年05月16日(土)

http://ameblo.jp/soulsearchin/entry-12027093726.html

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毎日新聞2015年5月20日水曜付け夕刊にB.B.キング追悼記事を寄稿しました。

{7DAA65B5-F08B-4819-98E4-FD38E2EEB9C4:01}




OBITUARY>King, B.B. (September 16, 1925 – May 14, 2015, 89 year old)
ESSAY>King, B.B.

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