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Channel: 吉岡正晴のソウル・サーチン
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○レクチャー「ミュージック・イズ・ミュージック~音楽のパクリについて」(2)

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○レクチャー「ミュージック・イズ・ミュージック~音楽のパクリについて」第7回~増田聡准教授(大阪市立大学)に参加(2)

 

【Lecture: Music Is Music: About Rip Off In Music (Part 2)】

 

(昨日の続き)

 

パクリ。

 

パクリというのは、英語ではRip off と表現される。さらに強いニュアンスだと、文字通りstole (盗み)、あるいは盗作ということだと、plagiarism (プレジャリズム)という言葉が使われる。

 

増田さんから講義後、「1930年代にはパクリってあったんですかね」と問われて、「さすがに30年代は知らないですが、50年代にはあったんでは」と答えた。「30年代頃の文献がないんですよね」と言われたが、確かに、その頃にパクリなどの概念があったのだろうか、疑問だ。

 

さてそのパクリという状況、状態だが、1955年のロックンロール誕生のあたりからあったのではないかと僕は見立てる。それは、しばしば「(白人の)ロックンロールは黒人音楽のパクリだ」と言われるからだ。白人のロックンロールは黒人のブルーズやゴスペル、リズム&ブルーズをパクったり(rip off)あるいは盗んで(stole)できたという見方で、これはすでに定説化している。

 

黒人のヒットを白人がカヴァーし、オリジナルよりも大ヒットにしてしまう。エルヴィス・プレスリーやパット・ブーン、さらに、ローリング・ストーンズやビートルズら皆アメリカの黒人音楽のヒットをカヴァー、模倣してより大きな白人市場でヒットさせる。きちんとクレジットをいれてカヴァーとする場合もあれば、クレジットをいれず、パクッてそのままヒットにしてしまうこともある。

 

当時の黒人ソングライターたちは、白人アーティストに「カヴァーされる」ことさえ嫌がった者もいる。

 

それらを搾取される (exploit)と捉えることもある。よく黒人が「俺たちは白人に搾取されているから」というの言い方だ。

 

また、よくジャム・セッションなどで、たとえば長いギター・ソロが入るときに、ちょっとだけおなじみの楽曲の有名なリフをほんの一節だけいれたりすることも昔からあった。

 

そうした場合、あるいは著作者に一部の著作権を与えなければならないのは4小節、あるいは8小節などともいわれる。

 

~~~

 

クレジット。

 

パクリ、盗作、カヴァーの違いは、ひとえに著作権上の分け方ということになる。前2者は、作者クレジットにオリジナル作者名が入らない。カヴァーは入る。

 

しかし、どこからがパクリで、パクリでないかの線引きは相当難しい。それがはっきりしないと裁判になり、細かい点が専門家によって精査され、判断が下される。

 

僕がこういう裁判で印象的に覚えているのが、このレクチャーでも最後の質問のところで出たと思うが、ジョージ・ハリソンの「マイ・スイート・ロード」(1970年)がシフォンズの「ヒーズ・ソー・ファイン」(1963年)に酷似しており、裁判となり、結局「盗作」と認定された一件だ。

 

その後、80年代に入ってレイ・パーカーの「ゴースト・バスターズ」がヒューイ・ルイス&ニュースの「アイ・ウォント・ア・ニュー・ドラッグ」に似ていると裁判になり、レイ・パーカーが負けた例も記憶に新しい。

 

最近では昨日のブログで再掲載した「ブラード・ラインズ」とマーヴィン・ゲイの「ガット・トゥ・ギヴ・イット・アップ」訴訟は大きかった。

 

パクリという意味では1950年代から音楽業界では脈々とあった。特に黒人音楽と白人音楽の間ではしばしば指摘されたが、当時はそれほど大問題にはならなかった。それはひとえに裁判をすればお金がかかるために、かなりの額を取れる見込みがないと裁判まで行かずに泣き寝入りになっていたからだ。

 

~~~

 

カヴァー。

 

一方でカヴァーというコンセプトは、1950年代以降、やはり1955年のロックンロール誕生以降に広まったと思われる。

 

それまで1930年代、40年代は、作曲家と実演家はきっぱり仕事が分かれており、作曲家(たとえばガーシュインなど)が曲を書くと、まずシート・ミュージック(楽譜)が流通し、それを元に実演家がこぞってその楽曲を録音したり、ステージで歌ったりした。そこでAという楽曲を5-6人のアーティストがほぼ同時に発表することが日常茶飯事となり、そのうちのどれかが大ヒットになったり、別の物はヒットしなかったりする状況になる。

 

だから、その頃は最初に大ヒットさせたアーティストが「オリジナル」的な捉えられ方をするようになるがほぼ同時期に同程度ヒットしていると、どれをオリジナルとするかなどは難しくなる。そこで、Aという楽曲の「誰それのヴァージョン」などという言い方がされるようになる。大ヒット・アーティストがいて、その後にそれをカヴァーすれば、それは「カヴァー」と呼ばれるが、同時期の場合、「カヴァー」とは言われにくい。

 

人気曲ともなれば、多くのシンガーや演奏家が演奏して、ヒットし、徐々にスタンダードになっていくわけだ。

 

そして、カヴァーという概念が徐々に大きくなっていくのは、歌ったり実演する者と作詞作曲家が同じ場合以降だ。Xというシンガー・ソングライターが書いて歌い、それを別のYというシンガーが歌えば、カヴァーになる。だが、これもそのXという作詞作曲家がZというアーティストのために書き下ろし、そのZがヒットさせてしまえば、Zの持ち歌として有名になり、以後これを歌う人たちは、Zのカヴァーとして認識される。

 

最初に書くか、ヒットさせるかでオリジナルが決まり、以後のものがカヴァーになる。

 

このほかに、例えば、クラシック楽曲のカヴァー、あるいは「パブリック・ドメイン」と言われるすでに「公共財」となっている楽曲のカヴァー、メロディー借用などは、あまりパクリとは言われずに、カヴァーもしくは、何々のメロディーを借用すると言われる。

 

パクリ、盗作、カヴァー。そして最近は影響を受けた(influenced)、オマージュ(hommage)などという言い方もされる。さらに過去20年はサンプリングという手法もでてきて、これもパクリ、カヴァーなどと並列に語られるようになった。これもきちんと著作権処理をして、クレジットをいれれば、合法、無断だと違法ということになる。

 

いずれも、著作権という概念が浸透し、それが大きなビジネスになったために、脚光を浴びることになった現象だ。以前も何度か書いたことがあるが、ここ150年か200年は、まさに「著作権バブルの時代」なのだ。そこからさまざまなひずみや、ストーリーが生まれることになる。

 

ENT>LECTURE>Rip Off

ENT>LECTURE>MUSIC IS MUSIC>Masuda, Satoshi

 

 

 

 


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